「創造する人」を訪ね歩き

悶々茶屋 その1:寒川ハジメ氏

悶々茶屋 その1:寒川ハジメ氏

創造する人は悶々としている。悶々としているから創造する。
ハンモックカフェならぬ「悶々茶屋」は、木々の間にひっそりと現れる、ささやかな心の一服処。苦しくそして素敵な悶々を抱えたお客様をお招きしての、ゆるりとした談笑の記録です。

 


悶々杯とほやの味

 

——「悶々茶屋の記念すべき第一回目にご登場いただきありがとうございます。今日は思い切り、日々の悶々の数々を打ち明けてくださいね。どうぞよろしくお願いします。」

寒川「企画の意図は理解して来たつもりだけど、こんな己を抉るような深淵なテーマを…こんな場所で、しかも午前中から話していいの?(笑)まあ、覚悟はできてますので、僕の悶々をどうぞ引っ張り出してください。こちらこそよろしくお願いします。」

 

——「まずは悶々杯で乾杯をお願いしたいのと、少し趣向がありまして。寒川さんにぴったりと思われるつまみを用意しています。」

寒川「『ほや』ですね。珍味そのもの、日本酒以外ありえないという味ですね。かわいいパッケージですね。」

 

——「一見キャラメルの箱みたいですよね。でも流石というか、まずはパッケージに目がいくんですね。」

寒川「箱につまようじが入ってる。好きだなあ、こういうホスピタリティ。食べるためなのか、食後のシーシーのためなのかわからないけど。」

 

——「付属品の面白さってありますよね。つまようじが2本入っていたら、ふたりで食べてくださいってメッセージに。」

寒川「確かに。なぜか子供ってこういうの好きだよね。大人が好きだろうって味のはずなのに。」

 

——「ほやの本来の見た目だけからすると、知らない人は大抵びっくりしますよね。これ食べられるの?的な。でも好きな人はもう、とことん好きっていう不思議な存在じゃないですか。食べたことのない人にほやの味を説明しようにも、ぴったりな言葉がありそうでないし。」

寒川「独特の香りがあって滋味深いけど、この味を西洋人とかに説明しようとなると大変かもね。」

 

——「寒川さんの仕事って、これとちょっと似てるような気がします。商品化できるの??っていう説明しづらい美味しいものを、うまく切り取ってパッケージして出すという。」

 

寒川「奇々怪々なものを盆にのせて出す的な?自分ではそこまで変化球は投げてないつもりなんだけどな。」

 

——「大人が大人のためにあれこれ知恵を絞って作ってるんだけど、結局子供がむしゃむしゃ食べてしまう、という感じも寒川さん的な気がしませんか?」

寒川「そうかもしれない。アウトドアのスキルなんかも子供にはわかりやすく、惜しみなく伝える、がモットーですから。」

 

 

 

 


元気に明日を迎えるだけでいい。

 

——「寒川さんはかつて玩具メーカーに勤務されていたとか。転職起業して焚き火カフェやサボりなどの変化球を投げ出したのはいつ頃になりますか?」

寒川「今から11年ほど前に横須賀で3knotというお店を始めたあたりですね。それが現在のサボリィな暮らしの(笑)、全てのスタートになったと言えます。」

——「会社勤めという安定した暮らしから、大きく環境を変えてしまう何かきっかけのようなものはあったのでしょうか。」

寒川「きっかけというよりも、サラリーマンでいること自体に悶々としていましたから。サラリーマン生活で溜まった鬱憤のようなものが弾けようとするのを引き金にして、反作用的に次の暮らしへ移って行ったような感じかなあ。当時はサボリメントが欠乏していたとでも言うのか…ある出勤の朝、思わず、通い慣れた駅のホーム反対側に停まっていた三崎口行きの電車に乗って海を見に行ってしまったこともありました。」

——「大好きです、そのエピソード!翌日、すっかり日焼けした顔で会社に行ったんですよね。」

寒川「そりゃ、やっぱり怒られたけどね(笑)。でもその小さなサボリ旅で、何かこう、大切なものを確認したような気持ちでした。その頃の僕だけじゃなく多くの人に必要なのは、元気に明日を迎えるという、とてもシンプルなことだったんじゃないかと。」

——「小さなサボリ旅で、元気に生きて行くことの源泉に気がついてしまった訳ですね。」

寒川「もともと、より心地よい暮らしへの渇望というか、旅や、ずっと好きだったアウトドアに関することを生業にしたいという思いは心のどこかにあったんだと思うのですが。それになんとなく、もう東京を離れてみてもいいんじゃないかな、と思っている部分もありました。」

——「ある意味、追い込まれた結果でもあったと。」

寒川「動物なんかでもそうだけど、ここにいたら危ない、とか窮地に追い込まれることで安全な場所に移動しようとする訳でしょ?僕も知らず知らずのうちに、単純にひとつの生き物としてその時の暮らしに違和感を募らせていたのか、まるで自分が自分に焚きつけられるような感じで、あるとき行動に移してしまった。何か結界が崩れたかのようでしたね。」

——「悶々濃度が限界だったわけですね(笑)。自分に焚きつけられて始めたのが焚き火カフェというのも、何か興味深い話ですね。」

寒川「焚き火、というか木を燃やすという行為について語り出すともの凄く長くなってしまうのだけど(笑)。まあでも自分の人生というふうに考えると、誰しもがそうだけど、単純にそんなに時間がない訳だよね。自分の好きなことにフォーカスをしてそこに喰らいついてやろうと。もちろん家庭もあるから生活していかなきゃいけないんだけどね。」

 

 


どこかで格好つけちゃうんですよね。

 

——「学生時代なんかはどんな感じだったんですか?もともと美術がお好きだったということですが」



寒川「学生の頃は彫刻をやっていました。彫刻だけでなく絵や美術全般が好きでした。」

 

——「ファインアートですか。内なる思いとか自分を表現したいという資質があった訳ですね。」



寒川「美術系の人間は特にそうだと思うけど、思春期の頃から自分なりの美意識みたいなもので生きていくんだという漠然とした思いはありました。人生の分岐点があったらそっちじゃなくてこっちに行くだろうというか。」

 

——「今に繋がるこだわりがもうすでに。とはいえ、自分の価値観を迷わず信じぬくのは、そう簡単ではないですよね。」

寒川「世の中のサイクルに入るか、入らずに自分として生きていくのか。そもそも世間に向いていなかったんだと思います。うまくいくかという心配ばかりしているより、自分の価値観のために苦悩していたいですし。」

 

——「表現者の感性というか、早くから問題意識があればこそですね。」

寒川「もうずっと悶々ですよ(笑)。もう死ぬまで悶々で良いと最近思っているぐらいです。若い頃はそうは思わなかったですけどね。」

 

——「生きていく上で、多くの人は経済的な成功や、世間との折り合いをつけることを優先しがちです。そういった迷いはなかったんですか?」

寒川「迷いがなかったと言えば嘘かもしれないけど。ひとりよがり万歳、でいいと思いますよ。例えそれがお金にならないものであったとしても。妻が聞いたらそれはもう怒ると思いますが。」

 

——「男はロマンチストですからね。」

寒川「お金は必要なのは勿論わかってるんだけど、そうじゃないんだとか言ってみたり。どこかで格好つけちゃうんですよね。」

 

 

 

仕事や人の求められ方は変わってきている。

 

——「生活を大きく変えようというタイミングで、歳頃のお子さんたちの転校という問題もあったと思いますが。」

寒川「息子が中1で娘が小5でしたからね。そりゃあもう、嫌に決まってますよね。そのうえ焚き火を仕事にすると言ったもんだから…妻からは延髄切りを浴びせられそうなほど反対されました。」

 

——「家族としては、何言ってんの!としか言えないですよね。でも実行してしまったと。」

寒川「子供には可哀想なことをしたけれど、もしもあの頃、子供のためにと判断を変えていたら、今頃もっと大きな苦労になって返ってきてしまっていたかもしれない。家族が理解して支えてくれたことには本当に感謝しています。特に妻のサポートに助けられたことは言い尽くせないほどです。」

 

——「ご苦労が絶えなかったと想像しますが、でも一家で逞しくなれそうですね。家族の絆も強くなったのでは。」



寒川「気がつけば家族の全員が、組織に属さずに生活していこうとしています。でもそれは寒川家がそうだということだけでなく、現代の仕事の選択肢としても決して間違ってはいないと思っています。ひと昔前と比べると、企業での仕事の内容や人の求められ方も随分違って来ている訳ですし。」

 

——「一見、気まぐれのようでありながら、よし!この世の中のサイクルから出るぞ!という、先見性のある父親としての、家族への先導だったのかもしれないですね。」

 

寒川「本能的にかも(笑)。大きな企業や組織にただ安寧を求めていれば良いというのではなく、自分の感性に向き合いながら、自らが貢献でき、活躍する場を作り出していく。これからはそういう時代になっていくと思います。」

 


ものづくりに大切なのは精神性

 

——「既成概念や一般論に甘んじるのではなく、本当に大切で必要なことを考えてやってみる。素晴らしいですね。弊社で提案している凌のコンセプトにも通じる気がします。」



寒川「足るを知る。それはもしかするとメーカーとして御法度のような考え方なのかもしれないけど(笑)、アクシーズクインの試みはとても面白いと思います。テクノロジーや構造だけでなく、そこに人としての感覚が介在していることが素晴らしい。発表した商品への思い入れに対して、どうしても世の中の評価とのギャップはあるだろうけど、ものづくりに大切なのはそういった精神性。精神性がなくて『ぽく』作ってもすぐ廃れちゃうからね。」

 

——「何かが調子良く売れているようだ、となると色んな方面から『ぽい』物が登場してきますよね。」



寒川「例えば日本のULガレージブランドが盛り上がっているけど、場所を同じくしているだけで良しとしたり、商売に効率的だから『ぽく』しとけ、ではなくて、ちゃんと『(大規模市場向けの商品とは)違うんだ』みたいな精神性を持って研ぎ澄ませたものだけが残っていくんでしょうね。」

 

——「そういえば今日はUL系のザックなんですね。」



寒川「ある方向に特化した道具は、到底完璧にはなり得ないし、これはこれで不便もあるけど、実用に調度良いと感じています。それに便利すぎる道具を手にしてしまうと、それまで意識していなかった不便さが不満として浮き彫りになってしまう。人生に不満が増えるのは嫌ですよね。だから道具はそこそこの便利さで良いと割り切っています。」

 

——「人間相手でも100%を求めてしまうと、少しでも違う部分を見つけたときに、妙に寂しく感じてしまいますもんね。」

寒川「それも、期待し過ぎなければ気にならなかったのに、という部分ですよね。それまで普通だった部分を改めてマイナスに感じたくないですからね。」

 

——「道具が優秀になるほど、それに甘えることで人間自身の能力は低下したりしますからね。」

 

寒川「そうそう。完璧でない道具を人間が工夫して使えてる、ぐらいがきっと調度良いんです。」

 

 

 

 


気持ちを共有する心地よさ

 

——「何やら秘密めいた存在の焚き火カフェや昼寝クラブ、そこへやって来るお客さんというのは、考えてみると特殊な人なんでしょうか?」

寒川「特殊かどうかはわかりませんが、そんな時間を求めてやって来てくれるお客さんですから、やはりどこか理解し合えるというか、他人と思えないというか。お客さんではあるけれど、例えば夕陽も眺めることのできない人生なんて…といったもやもやを共有できる相手な訳ですよ。」

 

——「悶々仲間、同属みたいなものですよね(笑)。」

寒川「どうしてこうした仕事をするようになったのか?といった興味を持たれるお客さんは多いですね。そのときはこちらもお客さんと一緒に自分を辿るような気持ちで居ることがあります。」

 

——「共感も焚き火カフェのコンテンツになっていると言えますね。弊社のシノギングのイベントに参加してくれるお客さんというのも、やはり共感できる部分が多い気がします。先ほどの話のようにまるまる共通の価値観を求めてしまいそうになると思いとどまるのですが(笑)。数あるツアーやサービスの中から、自分たちのを見つけて、選んで、来てくれるのはやはり嬉しいですよね。」

寒川「たくさんの分岐を経てここに辿り着いた人たちですからね。そんな人たちの気持ちと、自分の気持ちが合わさる時間のその心地よさ。それこそが焚き火カフェの大切な部分だと思っています。」

 

 

サボりの根幹をなすもの

 

——「今日は色々聞けて良かったです。焚き火だけでなく、かつてのミサキ・シエスタ・サヴォリ・クラブ(昼寝城)でも、経済活動とは程遠い『さぼる』という行為を商品とした寒川さんですが、その真の狙いというか心根が見えてきたような気がします。」



寒川「人生は悩んでこそなんですよ。日々悶々です。誰かがそこに向き合う為のひとときに寄り添いたい。それが僕がサボりをテーマにしていることの根幹をなす部分です。そして、ひとつのことに喰らいついて、それを粛々と続けていくことで、やがて見えてくる物がある。数学者や哲学者が成果を求めるより、日々とにかく、それぞれのテーマに喰らいついているように。」

 

——「粛々と、悶々と。探求の旅はこれからも続くのですね。」

 

寒川「ひとつのテーマについて答えというのは変わらなくそこにあって、その都度の自分が変わっていくだけなんだと感じます。とにかく、今進んでいる道が正しいと思ったら、進み続けることですね。」

 

——「ちなみに今まで来た道が間違っていると思ってしまった時は、どうすれば良いですか?」

 

寒川「その時はもう…急いで引き返すしかないです(笑)。」

 

 

 

 

 

 


 

 

【寒川ハジメ氏・プロフィール】
1963年香川県生まれ 玩具メーカー企画室勤務を経て、神奈川県横須賀市でアウトドアショップ「3knot(サンノット)」を開業。サボリをテーマに焚火カフェ、昼寝城など三浦半島を拠点に独自のアウトドアサービスを展開。池田書店より『新しいキャンプの教科書』出版。現在は横浜市で開催中の全国都市緑化フェアー里山ガーデンでアウトドアプロデュース担当。